8歳ぐらいに生えてきた上の前歯の白濁あって、心配され、来院される患者様がいらっしゃいます。
原因は
「エナメル質の形成不全」です!
歯は、口の中に生えてくる歯冠の部分と、歯ぐき(歯 槽骨)の中で歯を支えている歯根の部分から成り立ち、 歯冠部の表面を覆っているのがエナメル質です。エナ メル質は、人体の中で最も硬い組織で、水晶に匹敵す る硬度があります。 歯の表面に、白色や茶色をした部分を見かけることが あります。下の写真がそうですが、これはむし歯では ありません。歯が生えた直後から見られる生まれつき の変色です。
これは「エナメル質形成不全症」といって、歯の表面のエナメル質が生まれつきうまく作られず、変色がみられる状態です。 乳歯にも永久歯にも起こり、その部分は歯の質が弱くなっています。
エナメル質の形成不全は、遺伝性の疾患、あるいは歯の形成期に生じる何らかの原因で起こります。エナメル質の厚さが減少していたり、部分的に欠けていたりするようなものを「エナメル質減形成」、白濁・ 白斑や黄斑、褐色斑など石灰化の異常(歯の質の異常)が見られるものを「エナメル質石灰化不全」といいます。 エナメル質の形成不全は、種々の原因で生じ、遺伝性のエナメル質形成不全症では、乳歯および永久歯のすべての歯に形成不全が起こります。しかし、これはかなり稀な疾患です。エナメル質形成不全歯は、歯質が欠けていたり、石灰化が不全なため、むし歯になるリスクが高く、また、一度むし歯になると進行が速いことが危惧されます。 その一方で、歯が顎の骨の中で形成される時期に何らかの問題が起こると歯の形成不全が生じることがあります。これは、全身的な原因で起こることもあれば、 局所的な原因で起こることもあります。
① 全身的な要因
胎児期、つまり母親の妊娠期に何らかの全身的障害(例えば、母体の栄養障害、病気、内分泌異常、感染、代 謝異常、特定薬物の長期継続投与、ホルモン異常、ビ タミン不足など)で歯の形成、成長が一時的に阻害されることにより、エナメル質形成不全が起こります。 エナメル質形成不全が、全身的な原因による時は、1本 だけではなく、複数の歯に症状が出てくることが多いで す。多くの場合は、左右対称に現れると言われています。
② 局所的な要因
乳歯に外傷を受けた場合、乳歯のむし歯が大きく長期間化膿状態であった場合、後続する永久歯に影響が出て、エナメル質形成不全が見られる事があります。1~ 2歯に限局し、左右対称に認められることは少ないです。
「エナメル質形成不全症」は、6歳臼歯(第一大臼歯) と前歯(中切歯、側切歯)によく発症しやすい、と言 われています。発症に関してさまざまな要因との関連が疑われているようですが、どれも確証は得られていません。前述したように、奥歯である6歳臼歯 の方が脆く、むし歯になりやすいと言われています。
6歳臼歯は約80年間使うとても大切な歯です。この歯 をむし歯にしてしまったら大変です。
6歳臼歯が生えてきたら、早めに歯科医院を受診する ことをお勧めします。
また、早産・低出生体重児には、歯の形成不全が多くみられるという報告もありますが、このようなお子さんは、出生直後の栄養状態や全身状態が不良になりやすい為と考えられています。
エナメル質の形成不全の軽重度
軽度の場合は、限局性の変色があるだけですが、重度の場合は、エナメル質の表面に環状のくぼみ、不規則なクレーターを生じ、エナメル質の大部分が形成されないこともあります。歯みがきやおやつ・飲み物などに気をつけ、定期的にフッ素塗布を行い、歯の質を強化して、溶けにくい強い歯を作っていく必要があります。健康な歯でも、むし歯の予防にもなるので、フッ素塗布をしながら、 そのまま経過をみていくことが多いです。しかし、歯が大きく欠けている場合や歯質が脆くなっている場合は、治療が必要になることもあります。
永久歯の形成不全は、よほど歯の欠損が大きくないと エックス線写真でも診断できませんので、生えるまで待つしかありません。乳歯の形成不全の原因がそのまま永久歯の形成不全につながるものではありません。 ただ、もし永久歯でも形成不全がみられた場合は、重度な症状であれば、プラスチックの樹脂などで補強や 修復を行います。重度にもなると、穴が開いていたり、 デコボコになっていることがほとんどで歯科用レジン を用い、詰め物で補強・修復をして整形します。また 見た目や色が気になる場合は歯を削って、表面や全体をセラミックで覆うこともあります。 変色についての対処の場合は、ホワイトニングや歯のマニュキュアでの対処も可能です。ただし、安易に市販のものなどで行わず、歯医者さんに必ず相談してください。
「エナメル質形成不全」は遺伝でない限りは、原因を理解し防ぐことができる症例です。乳歯時のむし歯については、安易に生え変わるからと放置せず、必ず治療 を受けさせてください審美的な面も含めて歯の色や形 を回復する治療が必要になることが多くなると思いま す。
前歯にできる場合はそこから虫歯になることは少なく、 主に見た目の問題になります。 奥歯にできている場合は、そこからむし歯になりやすく、むし歯になると、とても進行が早いので、注意深く慎重な診査と予防が大 切です。
まとめ
「エナメル質形成不全症」という診断を受けても悲観することはありません。適切に予防していけば大丈夫です。 毎日の適切な歯磨きと、歯科医院での定期的な高濃度フッ素塗布で十分に予防可能です。
すでに歯が欠けている場合は、むし歯になっていなくてもプラスチックなどをつめて治療することがあります。 また、仮にむし歯になってしまっても、大きく崩れる 前に小さな補強をすることで、できるだけ長持ちさせ ることが重要です。
歯科医院での定期的な検診とメインテナンスが、とても 大切です。